物語の必要性
私は物語ができる過程を可視化したいと考えている。物語になり得る可能性を持つものはこの世界に偏在していると考えている。しかしそれらは欠片としてそこに在るだけで物語としては認識されず、至るところに転がっている。
それを掬い取って編みあげ、形として誰もが認識できる状態になっているもの、それが本ではないかと考えている。そんな本の形をした物語ができる過程を目に見える形にできないかと考えた。
一枚目の作品では、糸をキャンバスに縫い付けて画面を覆い尽くしていき、編まれているということを意識しながら制作した。糸は継ぎ足しながら一度も玉止めせず、物語が繋がっていることを表現しようとした。この作品ではキャンバスを使用することについて疑問が生じた。
二枚目の作品ではキャンバスから離れ、紙と糸を使用して制作した。この作品では糸を実際の文庫本と同じサイズに縫い付けたところ、自分自身が思う物語とは文庫本の形をしているという気づきを得ることができた。
今後は糸のみを用いて文庫本を模した作品を制作するつもりだ。この制作を通して私は、自分が思う物語のできる過程を可視化し、物語ができるという物語を一つの作品にしたいと考えている。