【第36回】越境EC成功へのプロセス
これまで何度か越境ECについて書いてきました。
海外取引には、決済、物流、言語の「3つの壁」が存在することはよく知られているところですが、規模の大小を問わず、日本のメーカーは海外に販路を開拓する努力をしないといけないのは、これまで何度も述べてきたとおりです。
越境ECでモノを売る場合、上記の3つ以外に、マーケティングという4つ目の壁が立ちはだかります。当然と言えば当然ですが、どこの誰に売るのかを明確にして、露出を高めていかないと、ただ英語や中国語でサイトを作って待っているだけでは、年に何度か注文が入ってくるのがせいぜいです。それは越境ECとは言えません。
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■「越境意識」の日本との差
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私の会社の主戦場はASEANであり、そこは日本企業にとって最も重要視すべき地域だと思っています。ですので、特にASEAN地域を例に話をしたいのですが、一度下記のサイトをご覧ください。これは、ASEANの中心であるシンガポールと、2番目の経済国であるマレーシアの、越境ECに関する調査です。
Cross-border e-commerce in Singapore and Malaysia
(※海外サイトへリンクします)
グラフが多いので、文章を読まなくても、だいたい内容は伝わると思いますが、シンガポールとマレーシアでは、これだけの割合の消費者が海外からモノを買っています。シンガポールに至っては、その中の半分以上がアメリカからの購入ですが、物理的に、日本よりはるかに遠い国から商品を買っているわけです。
シンガポールとマレーシアの消費者の越境購入割合
(※海外サイトへリンクします)
シンガポールは、アメリカを除けば韓国、日本、EC、中国がほぼ同割合です。ECの伸び率が注目されるマレーシア(2013年25%増)では、日本の存在感はありません。
以前書いた記事(海外EC展開へのステップ「越境EC」)にもありますが、日本人消費者の越境EC利用率はほぼ20%、一方、ベトナムやインドネシアのそれは、約80%前後です。
それは、自国のサイトに欲しいものがないという一面ももちろんありますが、やはりその「抵抗感のなさ」は、大いに注目したいところです。
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■越境ECを成功させるプロセス
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ところで、では具体的にどのようにすればいいのか、自分のサイトを英語や中国語にするだけでいいのか、ということですが、ひとつ例を紹介します。
ASEANには、有力なECサイトがいくつかあり、それぞれカテゴリーごとに強みを持っています。
例えば、ファッションや美容系だと、シンガポールで最大の会員数を誇るQoo10、家電製品や腕時計などは、LAZADAなど。もちろん、化粧品など、両社相当かぶっている領域もありますが、それぞれ強い分野がわりとはっきりしています。あるいは、日用品ならRedmartという注目のベンチャーもあります。
Qoo10:http://qoo10.sg/
LAZADA:http://www.lazada.sg/
Redmart:https://redmart.com/
(※海外サイトへリンクします)
多くのサイトは、アジア各国にそれぞれ別のサイトがあります。Qoo10の場合は日本にもあります(http://www.qoo10.jp/)。多くは、場所代で稼ぐテナント型ではなく、売れた分の何%かを徴収するモデルですので、まず、狙いたい国のサイトでアカウントを作り(ここ大事です)、たくさんの商品を登録します。ただし、商品は現地にあるわけではないので、「Shipping from Japan」と明記して、まず日本からの越境で反応を見ます。
もちろん、何もしないでいると埋もれるだけですので、反応を見ながら様々なプロモーションをやっていきます。タイムセールなどで料金を上げ下げしたりしながら、どんな商品がどの価格帯で刺さるのか、注意深く観察します。
日本からの発送は、自分でやるのが面倒であれば、それを専門にしている会社もありますので、そういうところにお願いするのもいいでしょう。
海外の消費者は越境ECに慣れているとはいえ、発送が国外からよりも、自国からの方が注文しやすいのは言うまでもありません。そこで、「これは売れる」と実感(感覚ではなく、数値で)した商品は、現地に送ります。その際、現地の物流企業に在庫保管と配送を依頼する必要が出てきますが、日本の国際物流専門会社には、そのようなことができる企業もあります。
※ちなみに、当社のOTTOSON(オトソン)というサービスでは、現在シンガポールで在庫を保管して、個別配送する仕組みを作っています。
OTTOSON Project(オトソンプロジェクト)
このように、
1.狙った国のECモールにたくさん商品を登録
2.日本からの越境EC
3.売れ筋を現地に送って国内配送
というプロセスで、成功を収めている日本の会社も、すでに存在します。
冒頭で述べた「4つの壁」のうち、決済は国によって違いますが、ASEANの中では、上記のサイト(Cross-border e-commerce in Singapore and Malaysia)にもあるように、シンガポールやマレーシアでの越境ECは、クレジットカード決済でほぼ大丈夫です。
2つ目の壁である物流は、日本からの配送、現地での配送と分けて考える必要がありますが、国によっては両方カバーしている企業もあります。
3つ目の言語は、その国に合わせて作るしかありませんが、できればこれは現地の人に文章を作ってもらうのがベターです。日本で、日本人が英訳すると、どうしても違和感のある言葉になってしまいます。
最後、4つ目の壁であるマーケティングが、日本のではなく、現地の人気ECモールに直接出品する最大の理由です。日本では楽天市場などもそうですが、現地のECも担当者がついたり、直接露出方法を相談できたりします。
このように、段階を踏んで、まず日本発送での越境EC、その後、商品を選んで現地からの越境EC(日本と違って、周辺国からの注文が普通にあります)と駒を進めていくのが、私の考える越境EC成功方法のひとつです。