日々

教え学ぶということのための下書き

課外活動指導法(美術)を受講した。高校生の美術の授業の補助をさせていただくというものであり、授業の内容は怖い絵について調べる事であった。

高校生と対面する前にまずは自分たちで怖い絵について調べ、何が怖いのか、何故怖いのかなどについてプレゼンを行なった。人に視覚的にわかりやすく訴えるというのは思いの外難しく、指摘されて初めて気付く部分も多くあった。特にスライドのデザインについてがそうである。背景色の使い方やフォントの選び方などのデザインを変えるだけで印象は大きく変わり、またアニメーションを適度に用いることは見ているものを飽きさせない効果があることを知った。

一通り自分たちで発表を終えてみて、次にすることは高校生に、調べる手順をどのようにして伝えるかである。絵画について調べる時、私たちはまず何から調べるだろうか。作品のテーマ、作者のこと、時代背景、作品のエピソード、技法、あれば注釈、そして先人の解説…調べようと思えばこのご時世である。ネットでも本でも資料はいくらでも転がっているのだからソースさえ気をつければ知りたいものに辿り着くことはそう難しくはないだろう。実際に調べてみても資料はそれなりに見つかった。しかしこれは第1段階だ。

テーマを班ごとに決めた時、おそらく「怖い絵」に対する様々な感情があったに違いない。怖いと思う感覚は人それぞれであるし、説明されなければわからない怖さもある。その怖さは一体どこから来るのか。何故怖いと思うのか。理由は一体なんだろう。これを突き詰めることこそ今回の授業の本題だと理解し、高校生には何故怖いと思うのか、何故この絵を選んだのかということを聞いてみた。不気味だから。違和感があるから。そんな声が多かったように思うが、最初にあった時点では何故怖いのか、何故惹かれたのか、高校生たちはぼんやりとしていた様子でかなり心配したことを覚えている。スライドも作成したが、何故怖いのかというまとめの部分を高校生に投げてしまったため心配でならなかった。発表当日、拝聴してみるとどうだ。高校生たちはとても立派に発表していた。特にこだわっていた「何故怖いのか」その理由。「未知との遭遇による、恐ろしいと思うと同時に目を背けずにはいられない。怖いけれどジッと見つめてしまう。」とてもよくまとまっていたと感じたし、私も聞いていてとても腑に落ちたような感覚がした。納得としか言いようがないまとめである。素晴らしかった。

他の班も、まず着眼点が面白く、何故そのテーマに至ったのかを聞いてみたいと思った班もあった。特に「怖い白」などは見事だった。確かに怖い。言われてみれば。怖いと感じるにはそんな共通点があったのか。プレゼンを聞きながらも頷きが止まらない時間であった。

今回の授業のテーマが怖い絵であった以上、怖い絵の規則性だとか傾向を探すようなプレゼンが完成したわけだが、結局のところ怖い絵、広義的に絵画の面白さ、怖さは余白があることではないかと私は感じた。鑑賞者になぜ、どうしてと思わせる。考える隙を与えている。そして大抵は答え合わせが不可能であること。作者がこうである。と提示しない限り、絵画は完成して世に出た瞬間から作者の手を離れて世の解釈の波に飲まれていく。怖い絵に限った話ではないがもしかすると今現在研究者たちが解説を添える絵画は作者にとって全く別の意図があったのかもしれない。それはそれで怖いと言えるのではないだろうか。モナリザだとかがそうだろう。

勝手な私の意見だが、作品の説明をするという行為は野暮なように思っている。言葉にできない感情を表すために絵を描いているのに、言葉にできるのなら絵を描く意味がない。他の目的で絵を描くなら話は別だが。言葉で説明できないよりはできた方がいいに決まっているが、果たして全てを言語化してしまうのは本当に良いことなのだろうかとふと思う。だからといって全く言語化出来ず、なんとなくこう描きました。では中身のないカラッポの絵になってしまうのだから、ある程度言葉は必要だとは思うが。

今こうして言葉を紡ぐことも、私はこのモヤモヤした気持ちを文字を書くという行為でしか発散させる術を知らないように、きっと絵でしか発散させることのできない感情が、絵でしか表現できない何かが、そこにはある。それを少しでも掴めたら。暗闇の中で光る蛍火のようにわずかだが美しいと思えるそれを掴みたい。これは鑑賞者としても描く側としても同じことである。答え合わせがしたいのではない。答えはない。探求することに意味があるのだと。思考の海を漂うことこそが至高の時で苦しみでそして楽しみなのだと。

課外活動指導法の受講とゼミ選択を迫られて、ようやく絵を描くことについて考えている。これだけ長く描いてきたのに描いてきたつもりだったのだ私は、と気付く。もうすぐ20歳になる。生まれ直す年。


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